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リレーエッセーその32 佐藤裕美 |
はじめまして。今回エッセーを書かせていただくことになりました、佐藤裕美です。 自己紹介を少しさせていただきます。私は宮城県に在住している大学生です。昨年の9月まで女流棋士の養成機関である「女流育成会」に在籍していました。この度、私のような者が当エッセイを書かせていただくということで大変恐縮なのですが、一生懸命に書きたいと思いますので宜しくお願いいたします。 2001年9月2日。 この日、育成会では1人の女流棋士が誕生しました。坂東香菜子さんが13勝3敗の成績で見事プロへの道を切り開いたのです。 女流棋士誕生の裏で、1人育成会から去る者がいました。そう、それは私です。最終局である伊藤瑞穂さんとの対局が終わった瞬間を今でも鮮明に思い出します。この瞬間、私のプロへの戦いは終わりました。 私は育成会に8年間在籍し、女流棋士を目指してきました。8年間という長い歳月の中で将棋から与えられたものはたくさんあります。勝負の厳しさや周りの声援のありがたさ、自分を信じることの難しさ……。本当に様々なことが私の心の中を通り過ぎていきました。育成会での経験は、これからの私の人生に大きく影響すると思います。 ところで、育成会員や奨励会員(つまりプロの卵)の将棋への想いや夢への戦いは皆さんにはあまり知られていないと思います。(昨年発行された大崎善生氏の著書『将棋の子』には奨励会員の修行について詳しく書かれてありますね。) プロ棋士の先生方の活躍は本や雑誌に掲載されますが、その華やかな世界の裏ではプロ棋士を目指す人達の純粋で熱いドラマがあります。プロという夢へ向かっていくひたむきな情熱のぶつかり合いが育成会や奨励会には存在するのです。昇級する人、退会する人、夢を追いかけひたむきに頑張る人、夢を追うことに疲れ果てる人……。1つの白星の裏には、たくさんの涙や努力が隠されています。 私は育成会時代、対局で負けるたびに自分の全人格を否定されたようで悔しかった。自分はもう頑張れないんじゃないか、自分を信じて将棋を指すことはこれ以上できないのだろうか……。今、振り返ってみると私には最後まで「自分を信じる力」が欠けていたように感じます。「勝ちたい」という気持ちが勝負を繰り返していくうちに「勝たなければならない」という気持ちに変わり、将棋を心から楽しんで指すことができなくなってしまっていたのですね。 しかし、暗い話ばかりではありません。応援してくれる皆さんや師匠、両親の存在が私を前に進ませてくれました。特に師匠の励ましの言葉には何度も奮い立たされました。私の師匠は横山澄恵女流二段です。師匠の将棋に対する真剣な姿勢、努力、プロとしての自覚の深さに多くのことを学びました。この姿を見て、私も師匠のような女流棋士になりたかった……。 私に限らず、棋士を目指す人達にはそれぞれのドラマがあるはずです。夢と挫折の狭間で揺れ動きながらも、前に進もうとするプロの卵たちの戦いには胸が熱くなります。81桝の将棋盤の上には色んな未来が汗を流しているのですね。このエッセイを読んでくださっている皆さんに1つお願いがあります。少しでもいい、プロの卵たちの夢への戦いに声援を送ってあげてください。お願いします。 最後に、これまで私を支えてくださった宮城県支部の皆さん、両親、そして尊敬する師匠に深くお礼を申し上げます。将棋で培った精神を胸に、これからも頑張っていきたいと思います。どんな時も自分を信じて……。 読みにくい文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。次回のエッセイは伊藤瑞穂さんにお願いします。伊藤さんは私が育成会時代に一緒に戦った方です。伊藤さんの将棋に対する姿勢の素晴らしさに幾度となく感動したのを覚えています。次回のエッセイも是非読んでくださいね! それでは。 (次回は伊藤瑞穂さんにバトンタッチ) |