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リレーエッセーその36 大平武洋 |
オートレース(以下オート)との出会いが遠回りの始まりだった。 初めてレース場に行ったのは、中学1年(時効にしてください)の10月頃、ちょうど奨励会に入った時だった。学校の同級生に連れて行ってもらったのが始まりで、家から自転車で30分くらいということもあり、頻繁に通うようになった。 初めて見たときからオート特有の爆音とスリルの虜になってしまった。 最初は、「同じバイクで走っているのに50メートルも前から走ってなぜ負けるのか?」と思った。しかし良く考えてみると、将棋も同じ性能の駒を使っているのに力に差がでる。似たようなものかなと思った。
ある時、広木幸生(ひろきさちお)という選手に出会った。この選手は、スタートが遅いのでいつも後ろからレースをしていく。追い上げるのは上手いのだが、マシンスポーツは『先手有利』なので、厳しいレースになりやすい。 当然、激しいチャージをしていくので、反則を取られたり、落車することは日常茶飯事だった。しかし広木選手は、苦手のスタートを克服しようとせずに、得意である『車捌き』を磨き続けた。 そして数年後、一流レーサーになった。
これまで12年くらいオートを見て来たが、ただ博打が好きというわけではなく(?)、選手たちのレースへの取り組み方などを自分なりに分析して将棋に活かしてきたつもりだ。 一番参考になったのが、「最初のチャンスが最後のチャンス」ということだった。 「一流になるほどワンチャンスをものにする」 この言葉を教訓にして奨励会生活を送った。 しかし、根が甘いので本業の将棋のほうがおろそかになってしまい、結局、奨励会を卒業するのに12年かかってしまった。
先程の広木選手だが、地元川口では、5本の指に入るほどの実力者になっていた(オートレース場は船橋・川口・伊勢崎・浜松・飯塚・山陽の6ヶ所に有り、1ヶ所に90人前後のレーサーが所属している)。それ程の選手でも、超一流の集まる「SGレース」(賞金は一千万以上。競馬でいう「GTレース」、将棋でいうとタイトル戦のようなもの)ではアキレス腱ともいえるスタートの遅れを挽回できずに、負けることが多かった。 そんな広木選手を見て、センスで「一流」になることはできても、「一流」と「超一流」の間には大きな壁があるのではないかと考えさせられた。
数年前、SMAPの森且行さんがオートレーサーに転向して話題になった。このことで、オートレース自体がだいぶ脚光を浴びるようになった。その影響でレーサーを目指す人が増え、オートレース界全体のレベルが上がってきた。最近の強い若手の傾向としては、「スタート速攻型」で早めに先頭に立って後続をぶっちぎるレース展開をする選手が多い(最近の将棋界もそんな感じ??)。この傾向が、SGレースでの広木選手の成績不振に拍車をかけた。 ところが、最近になって広木選手が突然いいスタートを切るようになってきた。スタートの練習をするようになったのではないかと思われる。その結果、成績も安定してきた。 いいスタートを切れるということは、前で走れるということであり、無理な攻めをせずに済みレース展開に余裕が出たのだろう。 「超一流」になる日も近いと私は信じている。
「一流」になる人とは、センスがある上に自分の長所を伸ばせる人。 「超一流」になる人とは、一流の条件にプラスして、自分の短所をきっちりと把握した上でそれを認め、克服することができる人だと思う。
プロ棋士になって4ヶ月近くが経った。 棋士として戦っていく以上、「超一流」を目指してやっていく。25才という事もあり、ここ1、2年が「超一流」になれるかどうかの瀬戸際だと思っている。 自分に足りないものは分かっているつもりなので、それを克服することができるならば、「超一流」も夢じゃないだろう。だけど、その前に俺、「一流」になれるのかな……。 (次回は遠山雄亮さんにバトンタッチ) |