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前回挙げた「将棋の起原をとりまくミステリー」を再掲します。
・・・前任者:山田康平より
(1) なぜ「玉」と「王」が使われているのか? (2) なぜ「歩兵」を「フヒョウ」と読むのか? (3)
なぜ「香車」を「キョウシャ」と読むのか? (4) 「桂馬」とは何か? (5) 「角行」とは何か? (6)
なぜ「角行」だけはイメージが湧きにくい名が付けられているのか? (7) なぜ「金」と「銀」のような類似した駒があるのか? (8)
なぜ「歩」「香」「桂」「銀」はなぜ成ると「金」の動きになるのか? (9) なぜ「金」は成れないのか? (10)
なぜ昔は将棋のことを「象戯」と書いたのか?
こうした疑問をカンタンにまとめると、今の将棋がなぜ今の形になったのか?っていうことだね。 それを推理するために、日本式の将棋がまったくなかった時代に戻って、チェスと中国将棋のルールをお手本にして、ゼロベースから日本式の将棋を構築することを試みる。そうすればこれらの疑問をすべて説明できる。 この方式を進める際の原則として、チェスと中国将棋の両方に共通していないルールは、なるべく排除することにしよう。つまり、チェスでのキャスリングやダブルステップやアンパッサン、中国将棋での九宮や河や師将不対面というルールは排除する。一方、どちらにも含まれる要素は、なるべく採用する。したがって、取った駒は使えない。これは同意できることだと思う。
まず最初に一番偉い駒を設定する。それはチェスも中国将棋も同じで、8方向に動く駒だ。 名前は、チェスの「キング」を直訳して「王」、それに中国将棋の「将」を足す。「王将」の誕生だ。
「王将」と名付けはしたけれど、その次にやっておくべきことがある。先手・後手の区別をするために、もう一つ別の名前をつけるということだ。 将棋しか知らないヒトはそういう方向には頭が廻らないだろうが、チェスでは駒が色分けされており、中国将棋では色や駒の名前を変えている。だから将棋でも、先後で別の名前を付けて区別するのは、当然のことなのだ。 このとき、先後の区別をつけるために「王」に似た字として採用されたのが、「玉」だった。こうして「玉将」が誕生した。つまり、「玉」が先か「王」が先か?ではなく、最初から「玉」と「王」の両方が存在していたのさ。 これで(1)は解決する。
さて、一番偉い駒の次は一番弱い駒を設定する。1歩前進しかできないというのが一番単純だ。これを考案者は「歩」と命名した。 「歩」と名付けたら、「王」と「玉」と同じように、後手番専用の名前を考える。そうして採用されたのが「兵」(ヒョウ)だった。 年配の方が、「歩」のことを「ヒョコ」と呼んでいるのを耳にしたことがあるだろう。あれは、もともと「歩」(フ)には「兵」(ヒョウ)という別の名前がついていたことのなごりなんだ。 後の世に、取った駒を再利用できるというルールが導入されたとき、「歩」と「兵」の名前はひとつになって「歩兵」(フヒョウ)という名に統一された。つまり、将棋で「歩兵」を「フヒョウ」と読むのは、もともと「フ」と「ヒョウ」という2つの名前があったから。 今でいうなら『第一勧業銀行』みたいなものなのさ。これで(2)は解決だね。
さて、チェスのポーンはナナメに駒を取ることができる。中国将棋でも、ナナメ(あるいはナナメ方向に2マス)に動ける駒がある。しかし「歩」「兵」はそれができない。だから次はそういうナナメ移動ができる駒を導入する。こうして、ナナメに動ける「歩」=「銀の動きを持つ駒」ができた。 その駒の名前をどうするか? ここでも先・後で別の名前を用意する必要がある。そこで、「金」と「銀」という、高い価値を持つ2つの貴金属をあてる。そして先手は「金」、後手は「銀」と表記すると決めた。 つまり、「金」と「銀」は、もともと同じ性能を持つ駒だったのだ。
続いて、チェスの「ナイト」や中国将棋の「マオ」のような、跳躍系の駒の名前を考える。 「金」と「銀」が、「価値の高い金属」なので、次は、「価値の高い木材」として、「桂」、そして「香」が候補となった。 将棋のルールを知らない人が、駒の名称だけ聞いたとしたなら、「桂」と「香」はいずれも「価値の高い木材」だから、性能も似ているのではないかと思うだろう。実は、「桂」と「香」は似た性能どころか、もともと同じ駒だったのさ。
次は「角」とは何か?だけど、ちょっと寄り道して、どうして将棋の駒に、「金属」や「木材」の名前を採用することにしたのか?を考えてみる。 それは、将棋が「象戯」と書かれていたことに起因する。 「象」というのは、図体がでかくてお鼻が長い動物のことだが、古代日本にはその動物は存在しない。将棋の考案者が、実際に「象」を目にすることは、まったくなかっただろうし、「象」で「戯れる」なんてことは、想像を絶することだったのだろう。将棋に「象」という駒がないのもそのせいだ。 そこで、将棋の考案者は「象」という字の意味を、そのまんま「象る」(カタドる)という意味に解釈したんだ。「象戯」というのは、もともとは「カタドり、タワムレる」という、クリエイティブな意味のコトバだったのさ。 そう考えると、「象る」ために使う材料として、「金属」「木材」から名前をつけたというのは、自然な発想だ。これで(10)は説明できるだろう。
さて、駒の名前が「象る」ための材料だとすれば、「角」というのが何なのかは、もう容易に想像できる。 古代日本において、何かを象るための材料といえば、「金属」「木材」…そして「骨角」だ。 「骨角」とは、骨・角・牙・甲羅・爪というような、生物から得られる素材で、装飾品や武器になるだけではなく、焼いたり割ったりして占いにも使われる神聖なものだった。そのため「象戯」の駒にも、「金属」「木材」とならんで「骨角」の類から名が選ばれ、結局「角」が採用されたのさ。つまり、「角」というのは、そのまんま、「ツノ」のことなのだ。 そして先後の区別をつけるために、採用されたもうひとつの「骨角」は、おそらく甲羅の「甲」だったのだろう。「角」と「甲」は字形も似ているし、これまた、祭祀に必要な貴重品でもある。 そうすると、「香」を「コウ」と読まず、「キョウ」と読む、というのも容易に説明可能だ。「香」を「コウ」と読むと「角」の別名である「甲」(コウ)と、音のうえで区別がつかなくなるからね。
チェスのルーク、中国将棋の車は、将棋でもそのまま採用されて、「飛」「車」とでも名づけられたのだろう。
以上から、「象戯」は、最初は以下のような初形だったことになる。
「成り」について考えてみよう。中国将棋の歩は、相手陣に侵入すると横に動けるようになる。これを参考にして、将棋での成り駒は、今でいう「金の動き」をすると決められた。「金の動きをする駒」はもともと初形の配置には存在せず、「金の動き」は成り駒専用だったんだ。これで(8)は解決だ。
やがて、「取った駒を使える」ルールを導入された。この場合、先後で駒の名称が違うというのはなにかと不都合なので、「歩」と「兵」は「歩兵」に、「桂」と「香」は「桂」に、「金」と「銀」は「銀」に、「角」と「甲」は「角甲」に、「飛」と「車」は「飛車」に、それぞれ統一された。
このとき、使われなくなった2つの名称「香」「金」についても、性能を変更して引き続き使用することにしたのだろう。「金」には、それまで成り駒専用だった動き方が正式採用された。これは「銀」よりほんのちょっと強い動きだからちょうどよい。「金」と「銀」が似た性能なのは、こういった経緯からなのだ。これで(7)は解決。また、「金」の成りがないのも、もともと成り駒専用の動きだから、用意されていなかったのだろう。これで(9)も解決だ。
「香」は「歩兵」より強く、「桂」より弱い駒として、飛車の動きを一部取り入れて、現在の動きに決められた。このとき、以前の「桂と同じ動き」ということを忘れるために、「駒の名称」を現す字「香」(キョウ)に「駒の動き方」を現す字「車」をくっつけて「香車」という名前を作った。こういったいきさつから、「香車」は将棋においては「コウシャ」と読まず、「キョウシャ」と読むのさ。また、「桂馬」という名前が生まれた経緯も同様で、「香」と区別するために、「駒の名称」を表す「桂」に「駒の動き方」を表す「馬」をくっつけたのだ。これで(3)と(4)は解決だ。
さて、残ったのは、(5)と(6)だが、現在の「角行」は、もともと「角甲」と書いたんだよ。やがて、カタチが似ている「角」と「甲」は短縮されて、1つの文字にされたけれども、呼び名だけは「カクコウ」となるよう、「行」の字が代用されたんだ。これが「角行」の誕生の過程なのさ。
そりゃいくらなんでもコジツケだって? ちゃあんと証拠が残っているよ。
コーヘイは、将棋の駒の「角行」をジックリと観察したことがあるかい? 普通、「角」という字の中央の縦棒は、横棒で止まっているけれど、将棋の駒の場合は下まで貫いている。 なに? 思い出せない? それじゃあ、http://www.rakuten.co.jp/shogi/367648/403534/403544/とかで確認しなよ。 あれは、「角行」が、もともと「角甲」だったなごりなのさ。「甲」という字の縦棒は、思いっきり突き出ているだろう?
おあとがよろしいようで。って、なんだよ? コーヘイ、じゃなかった、コーニンを推薦しろだって? うーん。俺は他人つきあいが悪いからなあ。 そうだ、よく行く「はなれこじま」という詰将棋サイトの管理人をしている、武藤仁志くんを紹介しよう。学生名人戦にも出ている実力者だ。意欲的な詰将棋を創ってるから、コーヘイもうかうかしてられないぞ。
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