リレーエッセーその63

学生将棋最高の舞台「王座戦」

加藤幸男



 学生将棋の真髄。それは団体戦にあると私は思う。各校の意地とプライドを懸けた戦い。その最高峰にあるのが学生なら誰でもあこがれる夢の大会、「王座戦」である。私に与えてくれたものは計り知れないこの大会を、振り返りながら語ってみたい。

 はじめに「王座戦」を知らない人のために説明したい。
 全日本学生将棋団体対抗戦(王座戦)は簡単にいえば学校単位の団体戦(7人制)の全国大会である。全国8地区の地区予選を勝ち抜いた計10チームによる総当りのリーグ戦によって競われる。順位は(1)チームの勝点数、(2)勝局数、(3)前回の地区成績順位の優先順で決められる。こんなところでわかっていただけただろうか?
 ではそろそろ本題に入りたい。


立命、初の全国制覇

 立命館大学将棋研究会に入って真っ先に耳にした言葉、それは「王座戦で優勝したい」ということだった。どの先輩に聞いても異口同音。私が入ってくる前の立命は毎年あと一歩のところで涙を呑んできた。  
 「あと一歩」、これが立命にとってどれほど遠い一歩だったことか。毎年優勝候補に挙げられながら阻まれる学生王座の厚い壁。その「あと一歩」を埋めるため頑張っていたのが当時の主将である佐野善弘さんだった。佐野さんの目指したもの。一言で簡単に言うと「立命を変える」事だったと思う。本当に熱い人で団体戦における考え方、戦い方などいろいろなことを教えていただいた。ここに一つの文がある。

…「最強チーム」、そんな言葉を最近よく耳にするが、それは、将棋が強いだけではなく、品行の善さ、精神面の強さ、応援体制の充実、これら全てを兼ね備えた選手たちの集まりの事を指すと思う。そんなチームに勝利の女神は微笑んでくれる気がする。

 実力主義的だった立命に新たな考え方を持ってきた人。何事もそうだが、新たなことに挑戦することは本当に大変なことである。そんな佐野さんの姿を見て、王座戦のことは全くわからなかったが、熱い思いは伝わった。「優勝したい」。

 初めての王座戦。それは「自分との戦い」だった。周りには数え切れないほどのギャラリー。聞いていた通りの凄まじい雰囲気がそこにはあった。緊張で震える手。言葉では表現できない精神状態で戦っている自分。全てが初めての経験だった。ここではそんな中指した、事実上の優勝決定戦、8回戦の明治大学戦の将棋を紹介したい。相手は後に学生王将となる藤井佳久さん。横歩取りの将棋で図は苦しい将棋を耐えに耐えようやく逆転したところである。


 ここで藤井さんは△7五銀の王手。以下▲8五玉(?)△8四飛▲9六玉△9四歩以下後手勝ち。△7五銀の王手には当然▲6五玉でそれなら先手が勝っていた。それを読んでいたのに、何故か3手必死のかかる方へ逃げてしまう。完全に雰囲気に呑まれ、自分を見失っていた。反省点の多いこの一局は私の学生将棋の原点になっている。

 チームは明治に競り勝ち初の優勝。このときは何もわからず先輩達についていき、気が付いたら優勝していた。そんな感じだった。

 


屈辱の55勝準優勝

 よく連覇は難しいと言われる。これは優勝した方が切り詰めた気持ちを維持するのが難しいからだと思う。連覇は本当に価値のある事である。
それに挑んだ2回目の王座戦。またしても明治大学との一騎打ちとなった。直接対決までの両チームの戦い振りは対照的だった。7−0の連続で危なげなく勝ち進む立命に対し、4−3で辛くも勝ってきた明治。これだけだと立命有利に聞こえるが、団体戦、ましてや王座戦では何が起こるか全くわからない。それは十分わかっているつもりだった。しかし、前年度覇者の慢心、そしてそれまでの戦いからの楽観など心のどこかに隙があったのだろう。戦いが始まると明治の気迫に圧倒される形で直接対決は2−5で完敗。

 歴代最多タイの55勝8敗という成績を挙げながらの準優勝。勝数から見て実力的には明治に劣らないものはあったと思う。しかし、その他の部分、特に「優勝したい」と思うチームの一つになった気持ちは手合い違いだった。あの文章を思い出しながらそう思った。団体戦の怖さを思い知らされた大会で本当に悔しかった。


雪辱を晴らす

 主将として迎えた今年度の王座戦。昨年度の敗北以来、「打倒明治」の一心で一年間戦ってきた。昨年の雪辱戦である。
 大会前日、過去2回はあれほどまでに緊張したのに今回は全くそれがなかった。自分で言うのも変だが心の中は澄み渡り本当に落ち着いていた。このことは今でも不思議である。
 今年のチームは昨年とは違い取りこぼしが多かった。しかし、昨年とは違う何かがチーム内にはあった。「みんなで戦い優勝したいと一つにまとまった思い」。それをチームワークと呼ぶのであろう。チームのムードは大会中も確実に高まり、最終戦の明治戦で最高潮に達した。明治戦の前に組んだ円陣は一生忘れないと思う。それは一年間主将として目指してきたもの。優勝を勝ち取ったことより嬉しかった。
 主将を務めたこの一年、人の上に立つ大変さを肌で感じ、押しつぶされそうになったこともあった。そんな中、行き着くのはやはり原点だった。団体戦の面白さ、チームで喜びを分かち合う嬉しさ。すばらしいチームメイトに恵まれ一年間主将を務めることができた。本当に感謝している。

 学生将棋最高の舞台「王座戦」。自分を成長させてくれた「王座戦」。ここまで、熱く強くなれる大会は今までもこれからも「王座戦」以外にないだろう。
 そんな舞台に立命の一員として毎年立てる自分は本当に幸せだと思う。この3年間、初の優勝からはじまりいろいろなことを味わった。王座戦だけでなく一年間団体戦で戦ってきたこと一つ一つがいい思い出だし、私自身の最高の財産となっている。
 早いもので来年度は学生将棋最後の年。学生将棋の集大成として最高の思い出を作りたい。

 短い文章でしたが最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


 次は昨年の12月から研究会で教えていただいてお世話になっているアマ最強の一角、今泉健司さんにバトンタッチします。



(次回は今泉健司さんにバトンタッチ)