リレーエッセーその65

福山の奇跡を語り継がなくては
ならなくなった席主の話

竹内茂仁



 今泉健司氏から突然のリレーエッセイの話。まったくの将棋の素人なのに…。この席主は思ったが、今泉氏の故郷である福山にリレーしていただいたわけだと有難く受けさせていただいたらしい…。

 さて、広島県福山市に日本一将棋の弱い席主(竹内茂仁・たけうちしげひと)がいる。今年で47歳という。将棋はもうすでに引退しており、弱くなる一方だから、まず日本一の座はゆるがないと胸をはっている。将棋界ではもちろん無名。今から5年前の12月ごろ自宅の一角にちいさな道場を開設した。

 関心のある方は下記まで
 http://homepage2.nifty.com/shogidojo/index.html

 さて、この席主、金無し、人脈無し、人徳無しの三拍子揃っている三無席主。自分で将棋が指したくて始めた道場。しかもサラリーマンだから土曜・日曜・祝日のみ。
 でも趣味ではじめたわけだからつぶれることがない。これが強みだったようだ。日本将棋界とはなんのしがらみもない。むしろそうした関係はあまり好みではないらしい。最初から開き直ってはじめた道場なので、たいそうな使命感などさらさら持ち合わせいない。したがって、志は極めて低い。

 当然のことながら、当時のこの席主は、これから福山に起こる奇跡について想像することなどできるはずもない。道場設立の時期と奇跡が起こる時期との奇妙な遭遇は、いま振り返ってもゾッとするほどの絶妙なタイミングだったとは……。

日本一のスタッフに恵まれて

 この貧弱な田舎道場にどういうわけか日本一のスタッフがいる。
顧問/宮本浩二氏、師範/開原孝治氏、講師/今泉健司氏、第一筆頭/中島裕貴氏、第二筆頭/谷次博之氏の5名。
 アマチュア将棋ファンなら知らない人の方が少ないであろう。ご存知の通り、全国屈指のタイトルホルダーと県代表クラスの強豪。しかも全員若い。この事実にみなさんは驚かれるであろうが、もっとも驚いているのが席主なのである。

奇跡のはじまり

 最初の奇跡は突然に起こった。
 開設当初、この道場は毎週日曜日、席主を含め3人程度で将棋を指していた。最初はたのしかったが、これで強くなれるだろうかとふと思ったそうだ。当然のことだが、もう少し強い相手が欲しかったらしい。当時、福山へ引越して5年程度であったこの席主は、福山の将棋事情には無知。
特にアマチュア強豪となるとネットワークはさっぱりであった。
 ただ、アマレンの関係で唯一開原氏の名前は知っていた。無謀にも突然、開原氏に道場師範をお願いしてみる気になったようだ。それがなんと即、開原氏が師範をうけてくれたのだった。
 これにはびっくりしたと同時に感激したことを席主はいまでも忘れていない。しかもボランティアである。すべての奇跡のはじまりがここにあったと今振り返るとそう思う。

 開原氏が師範…。腕を組んで真剣に考えた。
 「…ふむ、こうなると今までの3人将棋体制では開原氏に申しわけない。ちょっと心を入替えなければならん」と。
 席主は、必死で10人のアマレン会員を募った。そしてアマレン支部はこうした動機のもとに福山に生まれたわけだ。
 この時、アマレン中国ブロック担当の松田竹二郎氏の協力も非常に大きかった。

 開原氏は、このちいさな道場に毎週きてくれた。つまり、名前だけの師範ではなかったのだ。この道場に来たところで、開原氏にとっては棋力が上がるわけでもなく、どう客観的にみてもメリットはひとつもないのにである。しかし、道場にとっては、計り知れない。
 それと、説明しがたいが、開原師範の持つエネルギーは不思議なほどパワーがある。宇宙的というか…底知れぬパワーの持ち主なのである。最近「開原名人整体研究所」なるものを設立されて、多くの人を救っておられる。開原氏のパワーはとどまるところを知らない。
 偶然の出会いではあったが、開原氏が動いたことで確実に新しい力がこの道場だけでなく福山地区に流れ始めた。

奇跡が奇跡を呼ぶ(1)

 二つ目の奇跡を起きた。それが宮本浩二氏との出会いである。日本のアマチュア界をリードしてきただけに、一般アマチュアからみれば雲の上の存在である。スーパースターである。一度会えば、その魅力にみなさんはきっとファンになるでしょう。その誠実さと身のこなしは名人にふさわしい人格者である。
 その宮本氏が広島からこの福山の田舎道場に足を運んでくれたのである。もちろんこれは開原氏の人徳によるものであるが、この席主にとっては、夢物語、奇跡と呼ばずしてなんであろう。またしても、奇跡を運んでくれたのだ。

奇跡が奇跡を呼ぶ(2)

 開原氏・宮本氏両氏との出会いが、次の奇跡を呼ぶ。今泉健司氏の登場である。今泉氏が奨励会を去った年の12月のことであった。宮本浩二氏、開原孝治氏、今泉健司氏のビッグ3がこの田舎道場に集結することになったのである。席主はこのときほど運命というもの感じたことはなかったようだ。つぎからつぎにおきるこの奇跡をどう受け止めていくべきか。
 このとき道場で開催された年末特別対局、宮本浩二氏と今泉健司氏の一戦はいまでも心に残る。宮本氏の勝利に終わったわけだが、実はこの一局は今泉健司氏に「アマチュア将棋恐るべし」を印象づけた一番でもあったのだ。今泉氏が持っていた「アマチュア将棋」のイメージが大きくかわった一瞬だったのかもしれない。

ついに偉大な奇跡がおきた

 それまで道場におきた奇跡は単なる余震にすぎなかったのか。それはビッグ3が揃った翌年に大激震が福山を通りぬけた。
 開原氏もこのリレーエッセイで書かれていたのだが、この狭い福山から次から次へと3人の全国名人が連続で誕生したのだった。

(1)平成12年9月11日 開原孝治氏 全日本アマチュア名人位獲得
(2)平成13年4月1日 吉田拓未君 全日本小学生名人位獲得
(3)平成13年5月6日 今泉健司氏 全日本レーティング選手権優勝

 今泉氏は、その年のグランドチャンピオン戦には完全優勝した。尚、グランドチャンピオン戦には、開原氏と今泉氏の二人が福山市から同時に出場するという極めてめずらしいことになった。おそらくこの3人による4冠連続全国制覇は100年は語り継がれてもよい福山の奇跡であろう。
 またその事実に遭遇したこの席主には、語り継ぐ使命があるのだと自覚しなければならない。

そんな席主の夢

 開原アマ名人の誕生を期に、福山名人戦・順位戦が誕生した。
 http://fkuya.tripod.co.jp/taisen.htm

 棋譜観戦もできる。
 http://www.h3.dion.ne.jp/~fku/fku.htm

歴代の福山名人
第一期  開原孝治氏
第二期  今泉健司氏
第三期  今泉健司氏(今期)

 今期の優勝で今泉氏の連覇となった。今泉氏の強さは圧倒的。今期は最終局をまたず決定した。
 来期は第四期。今泉氏の三連覇を止めるのは誰なのか。この席主は無謀にもまだまだ新たな強豪の参加を心からのぞんでいるらしい。かねてからお願いしていた広島の柿本雅之氏、佐野祐司氏が参加を決断してくれた。今泉健司氏から木村秀利氏、加藤幸男氏も参加してくれると聞いた。ご理解いただき、本当に頭がさがる思いだ。
 この順位戦では第三期よりすでにインターネット対局を導入している。全国のどこにいても誰でもこの順位戦への参加を可能にするためである。(ただ今参加者募集中です。我こそはと思われる方はいつでもお問い合わせくださいませ)

 夢は「日本最高・最強のアマチュア名人戦」の設立である。この席主は本気で考えているらしい。そのためにはインターネットなくしては成立しないと判断したようだ。
 もしアマ最高峰の順位戦ができたなら、その次はアマプロの枠を超えた全日本オープン棋戦の設立だ。このオープン棋戦が将棋界に及ぼす影響は計り知れないだろう。
 将棋界におこる奇跡をこの田舎席主は見ることができるのだろうか。


最後に

 さて、この三無席主の次にバトンタッチするのは、「伝説の棋士 藤原雄三」さんです。
 かつて全国にその名をとどろかせ、大山十五世名人からプロ入りを勧められたほどの実力者。このつまらぬ席主が何故岡山の藤原雄三氏を知っているのか…。これもまた偉大なる道場スタッフのお陰。奇跡のひとつであります。藤原さんよろしくお願いします。



(次回は藤原雄三さんにバトンタッチ)