リレーエッセーその79

へんてこな席主の日常

奈良岡実



 将棋の世界は、一般社会から見ると変な人多い。たぶんその中でも、私は特別変わっている一人ではないか。以下を読んだみなさんは、どう思われるだろうか。


 だいぶ前の話になるが、ちょっと指す若いのが将棋部のある大学に合格した。当然入部したものと思い、帰省したときに感想を聞いてみた。しかし、部室には行ってみたが入らなかったとのこと。意外に思い理由を聞くと「なんか、みんなアホなことばっかりやっているようで」。

 ふ〜ん、そうなのか。古い記憶をたどってみると、中央大学の将棋部を訪れたとき、私もそれは真っ先に感じた(先輩方すいません)。しかし、そのあとが正反対だった。なんて自分にぴったりの、居心地のいいところなんだ。思えばここが深みの始まりだった。大学の将棋部に8年間在籍し、関東大学将棋連盟の常任幹事を7年務めることになったのだから。

 それから二十年ほどの月日が過ぎた。今は何をやっているか。驚くべき事に、大学時代と変わらない日常を送っているのである。職業は、自分でもよく分からない。「青森将棋センター」の席主ではあるが、それによって主な収入を得ることを職業の定義とすると、私は当てはまらないような気がする。地方紙の将棋欄観戦記者、子供教室の先生、カルチャー講座の講師、県連の運営者、「青森県将棋まつり」の開催者、たまに県代表になるくらいのアマプレーヤー、などなど将棋に関するたくさんの立場の複合体か。ここでは一応道場の席主ということで、充実度?の順番に日常を紹介したい。

 「青森将棋センター」の営業は午後1時から10時まで。なのであるが、日曜日は私はほとんど居ない。青森県はこれまた異常なほど将棋大会が多く、大・中合わせると50を越える。一年中県内あちこちの大会に出かけているのだ。小まで全部は把握できないが、選手専任が10回、選手・運営兼任が15回、運営だけが15回くらいの感じで将棋大会に関係している。あとは全国大会の付き添いとか、子供たちの練習試合があったりで、NHK杯を自宅で見ることはほとんど無い。日曜日に席主が居ないなんて、将棋道場というものを知ってる人には信じられないことだろう。

 土曜日は道場がいちばん忙しい。数えたことはないけど多い日は50人近くになるのかな。子供、大人の割合は4−6くらい。

 個人的には火曜日が悲惨だ。この日は道場を閉め、原稿書きに専念する。集中しないと書けないのだ。年間50局くらい。この原稿も火曜日に書いている。「青森将棋界のホームページ」にも遊びでいろいろと書いているのでおひまな方は一度のぞいていただきたい。一度、将棋ペン倶楽部で望外の賞をいただいたこともある。

 水曜日はカルチャーセンターの年輩者用講座で、土曜日は初級者用講座。初心者講座は大切なのだが土曜日はとても動けないので女性講師にお願いし、私はときどき手伝いに行く。

 祝日は、ほとんど何かの将棋会。世話役だったり、審判長だったり、終了後の飲み会要員も。定期的には盲人将棋会があり、こちらは全国優勝者も出ている。

 月、木、金は自由な曜日。道場の雑用(片づけものとか、支払いとか、諸連絡事項とかけっこうあるんだよね)、県連の仕事、会議などをここでこなす。将棋まつりの前後3ヶ月は、まっったくかかりきりになる。この期間は将棋世界、近代将棋も読む時間がない。将棋のことをしないお休みの日は年に2日。大晦日と元旦だけ。

 そんなに年中将棋に関わって嫌になることはないのか、と聞かれることもある。まったくない、というより用事が多すぎて自分の将棋の時間が取れないのが不満と言えば不満だ。審判長を務める大会でも「駒落ちでもいいから混ぜて」と言い出したり、子供を見つけて八枚落ちを指したりしている。一日30局は普通だし、50局でも喜んで指す。細切れの時間があれば将棋倶楽部24で指しているのだが、ここの管理人さんと当たったときはお互いびっくりしましたね。本音を言えば、相手の力を引き出す「指導」はやっぱり疲れるので、どんなにきつい手合いでも「勝負」の方が嬉しい。
 
 職業が分からないくらいだから、年収もよく分からない。たぶん、とっても少ないと思う。しかしまあ独り身だし、自宅に住んでいるし、なにより一番好きなことを毎日やっているのだから、他にお金を使う必要も機会もない。ふつうに生活してみなさんとお付き合いするのには不自由しないので、ありがたいと思っている。

 というわけで、やっぱり変な生活ですよね。でも、毎日自分の職場に行くのが楽しくて楽しくてたまらなく、そんな中でも子供たちの成長という確実な変化も希望もある。今年の全国小学生名人戦、工藤俊介君の準優勝は惜しかったが後進もたくさん居るし、そのうち誰かが優勝するさ、なんて脳天気に思っている。夢は青森将棋センターの出身者でアマ名人から女流、小学生までアマ全クラスの優勝者を出すこと。その中でいろんな人とも知り合えるし、自分的には最高の生活を送っている。これを読んだ人、あきれないで下さいね。


 次の人選は、反対方向に行きたいな。常識人で、青森市出身で、将棋まつりの司会を務めていただいてるとっても素敵な人、中村修八段夫人の中村雅子さんにバトンタッチ。


(次回は中村雅子さんにバトンタッチ)