リレーエッセーその82

どっちの勝ち

萩原聡敦



 休日になると、大小様々な将棋大会に出場するのがわたしの楽しみの一つです。
 ところが、最近将棋のルール(反則)について、ちょっと疑問に残ることがあります。
 将棋大会は、対局前に関係者や審判の挨拶があり、試合形式、ルールの説明があります。
 規定については、「日本将棋連盟のルールに準じます…」と説明することもあります。
 しかし、わたしはこの「日本将棋連盟のルールに準じます…」の意味がよくわかりません。大会に参加している多くの人は、このルールを理解している人は少ないのではないでしょうか。
 わたしは、今までにこんな場面に出くわしたことがあります。
 次の場合はどちらが勝ちですか?

 【切れ負け対局】

 先手が▲5二金と、頭金で後手玉を詰ませ、自分のチェスクロックを押したが切れてしまった場合。

○詰ませた瞬間にすでに勝敗が決しているから先手の勝ち
○後手玉を詰ませても、時計を押すまでが1セットとみなし、切れ負けで後手の勝ち

 このようなことは、何回か目撃したことがありますが、わたしは明確にどちらが勝ちかわかりません。


 また、入玉にもトラブルがつきものです。

 わたしは、とある地方大会に出場し、準決勝での対局です。
 この一戦は相手にうまく指され、寄せ合いではとても勝てないと判断したわたしは、相手の持ち時間が少ないのを確認し(30分切れ負け、この時点で相手は3分、わたしは11分)入玉することに方針を切り換えました。ボロボロと駒を取られはしましたが、どうにか入玉を果たし、わたしの玉は、すぐには寄りません。相手は、穴熊のままです。
 この時点で、残り時間は、相手が7秒、わたしが6分になっていました。
 わたしは、内心勝ちを確信していました。
 そのとき、突然相手はチェスクロックの中断ボタンを押して、席を立ちました。
 しばらくすると、この大会の審判員である某プロ棋士がやって来て、しばし盤面を見つめ、相手側の勝ちを宣言しました。
 わたしはびっくりして、この対局は切れ負け戦であること、相手側は入玉をしていないことを理由に対局の継続を申し出ましたが、そのプロ棋士は、「君は志が低い!」と一喝されました。

 わたしは、寄せ合いでは勝てない状況でしたので、切れ勝ちするため、勝負に徹したわけですが、このように判断されて、わけがわからなくなりました。

 最近は、「宣言法」というルールがあるようですが、条件を1つでも満たさないで、宣言した場合は、相手側の勝ちになるようです。
 なぜ、間違えて宣言したら負けになるのでしょうか?
 もともとこのルールもわかりづらく、わたしはすべての条件を満たさないで宣言してしまい、負けになってしまった人を何人か目撃したことがあります。
 この宣言法も日本将棋連盟のルールなんでしょうか?


 反則についてもわからないことがあります。

 先日ある大会で見かけたのですが、▲4三歩成と王手しました。ところが、先手には4九に歩が打ってありました。お互い4九歩の存在に気づかず、後手は、▲4三歩成に玉を逃げました。
 それから数手で、先手は後手玉を詰ませ、後手は自玉が詰んで投了しました。
 が、すぐに、後手は「あっ、▲4三歩成は二歩じゃないか?」と言いました。
 先手は、後手が投了したので、先手の勝ちを主張しました。
 こういう場合はどちらが勝ちでしょうか?

○投了優先で先手の勝ち
○二歩をお互い認めていたら、投了後であっても、二歩を打った先手の負け
○棋譜を取るような大会であれば、投了後でも二歩を打ったほうが負け。

 観戦者または記録を取っていた人が二歩を指摘した場合はどうなるのでしょうか。
 助言呼ばわりされるかもしれませんが、何れにせよ、どちらが勝ちになるのでしょうか?

 わたしは、アマ強豪数名集まる中で同じ質問しましたが、人それぞれ意見が違ってまとまりませんでした。
 大会を開催するときは、今やチェスクロックは欠かすことはできません。
 しかし、このようなトラブルを避けるためにも、どこかで切れ負けや入玉のについて、明確な規定を作ってもらえないものでしょうか。


 余談ではありますが、切れ負け戦で面白い対局がありましたので、紹介させてもらいます。
 もう7〜8年前になるでしょうか。アマ東京代表戦予選での出来事。
 わたしは、早めに対局を終えたので、会場をぶらぶらしていました。
 1回戦からI 氏とK氏の強豪対決があったので、観戦することにしました。
 さすが強豪対決とあって、お互い背筋をピンと伸ばし手つきも決まっています。
 局面は、本格的な相矢倉です。
 いま、先手のI 氏が▲5五歩と開戦しました。
 わたしは、おやっ?と 思い時計を見ました。デジタルのチェスクロックは切れ負けに設定されています。この大会は35分切れ負けルールです。
お互いの残り時間は、ともに1分30秒弱。
 わたしは、3分以内で勝負がつくような局面でないので、興味深く眺めました。
 それでも、お互い小考を重ね手つきよく落ち着いて指しています。
しかし、残り時間が1分を切ったころから、だんだん早指しになってきました。
 そして、残り20秒を切ったときに、I 氏の指した手の勢いで、K氏の角が隣の人の椅子の下へ弾き飛ばされました。
 わたしは、慌てて駒を拾いにいき、元の位置に置きました。
 少し前まで風格ある態度で指していたのが別人のようです。
 時計は押すのではなく、叩いているようです。
 そして、残り時間が10秒を切ったとき、T氏は勢いよく5五へ角を打ちつけると、盤面全体が、修復不可能なくらい、ぐちゃぐちゃになってしまいました。
 もう、お互い盤面を戻す余裕はありません。
 そうすると、なななんと、K氏は「△7七銀!」と声を出して、チェスクロックを押しました。
 それにつられるようにT氏も、「▲5八飛車!」と言ってチェスクロックを押し返します。
 その後は、声を出してはチェスクロックを叩くが続き、とうとうK氏の時計が切れたのでした。
 しかも、声を出しての符号の言い合いは、出鱈目でなく、ちゃんと本筋の指し手になっており、わたしはいたく感心しました。


 皆さんにも持論や経験があるでしょうから、切れ負けや反則について、ご意見いただければ幸いです。

 次は、高校時代からの親友の秋山禎浩さんに、バトンタッチします。


(次回は秋山禎浩さんにバトンタッチ)