リレーエッセーその87

将棋ペンクラブ大賞
観戦記部門賞を受賞して

西條耕一



 たまたま将棋会館にいたら、東京将棋記者会OBの田辺忠幸翁がやって来て「きょう将棋ペンクラブの選考委員会があってな、観戦記部門賞に君の原稿が選ばれたから伝えておく。俺は君の原稿は推薦してないんだが、ほかの委員が推薦したんだ。表彰式は9月19日だから必ず来るようにな。来なきゃ賞金はやらんぞ。わっははははは」と言うだけ言って部屋を出ようとした。
 田辺翁の背中に向かって「いや、あの原稿(羽生−阿部の竜王戦第4局)はあまり面白くないんですけどね」と言うと「そうだ、今回はレベルが低かったんだ。だから君のが選ばれたんだ。ぐはははは」と言って、翁は台風のように去っていった。確か3年前は最終選考に残った私の原稿を「だ、で終わる文章が多い。表現力に欠けている」と言って、落とした張本人である。同じ選考委員の高橋呉郎さんは「それより情報の絶対量は素晴らしい」とほめてくれたので、以来、高橋さんには恩義を感じている。 ただ、敬老精神あふれるよみくまは寛容なので忠幸旦那に対して根に持っていない。それにしても胃の手術をして日本酒を18ccしか飲めないのに、おじさんは相変わらず口が達者である。

 さて、今回なぜか賞をいただくことになった。賞をもらって悪い気がするわけがない。土曜日に受賞を告げられ、日曜に事務局の湯川さんから電話をもらっても、それほど実感がわかなかったが、きょう月曜になって事務局から会社宛てにファクスで受賞者一覧をもらって読でんでみると、やはりうれしくなった。記者は活字に弱いのである。
 昨年末、13日間に渡って掲載された自分のその原稿を読んでみた。恥ずかしい。257手の名局だけに力が入るのはやむを得ないが、力が入りすぎている。
 私個人としては、第7局を書いたNHKテキストの観戦記なら、さほど恥ずかしくなかったのだろうが、その原稿は誰も推薦してくれなかったらしい。自画自賛している原稿だっただけに残念である。  ただ、将棋ペンクラブ大賞の過去の観戦記部門賞の原稿を全部読んだわけではないが、どれも大したことはない。記憶にある中では、第1回の井口さんの加藤−米長戦、最近では先崎八段の藤井−羽生戦の2局だけは感心した。少なくとも谷川王位の受賞作は読んでいないので、評価できない。言われてみると、関さんのも、青野さんのも読んでいない気がする。実は大して読んでいないので論評する立場にないか‥。いや、読んだけど記憶に残っていないのか不明である。

 もっとも、受賞者自体はそれほど違和感ない。が、受賞作はその人の持ち味が出ていない気がする。選考過程をよく知らないのだが、受賞の可能性のある人はせいぜい5人ぐらいだろうから、本人に「どれが一番良かったですか」と聞けばいい。そうすれば皆気持ちよく授賞式に臨めると思う。
 きょう夕方になって受賞祝いをしましょうと、あちこちからメールが来た。賞を受ける人に取材したのはこの15年で何百人か分からないが、自分はと考えると大学4年の時に東日本学生名人になって以来か。受賞を素直に喜び、これからもいい原稿を書きたい。



(次回は上地隆蔵さんにバトンタッチ)