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リレーエッセーその114 コンピュータは将棋を変えるのか 松原 仁 |
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コンピュータ将棋の研究をしている松原仁です。Reijer Grimbergen同様に将棋で食べていることになります。Reijerとは以前のつくばの職場(通産省の電子技術総合研究所というところです)で同僚として一緒に仕事をしていました(ちなみに彼の奥さんはわれわれの研究グループの秘書だった人です)。いまは公立はこだて未来大学という函館市の大学で教員をしています。出身は東京なので、北海道で函館がもっとも暖かいとはいえ冬はこたえます。4年住んでようやく凍った道で転ばないようになってきました(歩き方にこつがあります)。 将棋のルールを覚えたのは小学校の高学年のころで、中学のときは休み時間に同級生とよく将棋を指していました。中学高校に当時は将棋部が存在しませんでしたが、上級生に深井一伸さん、下級生に金子タカシさん、というアマチュアの強豪がいたところを見ると、かなり将棋が盛んな学校だったのでしょう(ちなみに私は運動会系だったこともあってお二人とは面識はありません。金子タカシさんは私の弟と同級生でした)。私の同級生は指し将棋では活躍していませんが、松澤成俊という詰パラの強豪解答者や則内誠一郎という詰将棋作家がいます。私は同級生の中でも弱かったので、当時の同級生は「松原が将棋で食べているとはなあ」と言っています。 大学にはいっても一年上に谷川俊昭さんがいたりしてとてもかなわないということで将棋部にははいりませんでした。たまに飛び込みで道場などで指していましたが、五段の免状をもらったのは就職して免状代が払えるようになった27歳のときです。それ以来まともな勝負将棋は指していません(最近ある新聞社の企画で石田和雄九段と飛香落ちを指しましたが、撃沈されました)。Reijerとは彼がまだオランダにいたときに一局だけ指しています。ヨーロッパチャンピオン数回の彼とまともに指していない私では実力の差は明らかで、すぐに必敗の形勢になりましたが、ごまかしにごまかしを重ねて最後は大逆転で勝利しました。それ以来一度も指していません(Reijerからはずっと再戦を申し込まれていますが、逃げ回っています)。大学院ではロボットの研究室にいました。大学院のかなり後輩に香山健太郎さんがいます(彼も私も大学院の研究テーマはロボットだったのです)。 チェスでコンピュータが人間の世界チャンピオンに勝ったので、次の目標は将棋と囲碁になります(こういうタイプのゲームでコンピュータにとってチェスよりむずかしいゲームは中国将棋、将棋、囲碁ぐらいしかありません)。なかでも将棋はチェスに似ていてそれでいて違う(持ち駒制度のためです)ので、手ごろな題材となっています。1980年代のコンピュータ将棋はまだ論外の弱さでしたが、90年代にはいって急速に強くなりました。以前このリレーエッセイに出た山下宏さんも大活躍しています。詰将棋を解く技術が格段に進歩したこと(詰将棋だけであればすでにプロ棋士の実力をはるかに凌駕しています)、チェスで使われた手法を将棋向きに改良したこと、コンピュータの速度も容量も進歩したこと、などが強くなった理由です。最近のコンピュータ将棋は早指しであればアマ五段程度の実力を持っています。名人の道はまだ遠いですが、2010年代には達成できるのではないかと思っています(こう予想しているのは元プロ棋士で研究者の飯田弘之さんや私など少数派で、多数派はもっと悲観的です)。 コンピュータ将棋の発展が将棋をつまらなくするという考えもあると思いますが、私はそうは思いません。人間よりコンピュータが強くなったチェスも依然として元気です(チェスのプログラムを作る研究は元気がなくなりつつあります。目標を達成してしまったので仕方がないでしょう)。将棋も元気であり続けるでしょう。もしも将棋が元気を失うとすれば、それはコンピュータが強くなったときではなく、ファンから遊離してしまったときだろうと思います。私は以前あるところ(「将棋世界」の連載の中と記憶していますが、確かではありません)にこのようなことを書きました。「コンピュータが人間より強くなったら将棋がつまらなくなるという人は、将棋というものを理解していないか、人間というものを理解していないか、どちらかである」。コンピュータが将棋の新しい魅力を示してくれることを祈っています。 ここ5、6年はプログラムを強くするために、人間がどう次の一手を決めているかを知る目的でプロ棋士を被験者にした実験もしています。次はその研究パートナーである伊藤毅志さんにバトンタッチ。
(次回は伊藤毅志さんにバトンタッチ)
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