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リレーエッセーその120
田名後健吾 2000年4月のある日、私の将棋人生において最大ともいえる邂逅があった。それは異動で同じ部署に来た馬券師Tさん(仮名・以下T師)との対局である。
T師も私も棋力は24では1級から3級の間をいったりきたり、という感じだ。一応、職団戦ではチームのC級残留に貢献する白星をともに挙げた事もある。客観的に見て、同程度の棋力と言えるだろう。 プロの間では、このようなライバル意識が互いを高めあい、より優れた棋譜を生み出す。しかし、我々の場合は逆だった。お互いに「こんな奴のこんな手にやられてたまるか」という意識が悪手を呼び、その悪手にまた悪手で返す。その目まぐるしく変わる形勢を、ある人は「七転八倒の終盤」と評したほどだった。
一例として、2004年11月に指された将棋を紹介したい。先手T師の陽動振り飛車に対し、なんなく飛先を突破した私が銀得の大優勢となる。そこで出たT師の次の一手が▲4四桂。 ![]() 金の両取りをかけて気分がよさげなT師だが、馬の利きを見落としていた。当然、私は△同馬。駒割・働きから見ても私の必勝型だろう。しかし、多数の観戦者のうち、この時点での私の勝利を予想した人は誰一人いなかった。なにせ、ここから形勢が入れ替わるなど、日常茶飯事だからだ。 実際、本譜もここから▲6四角△8七飛成▲9一角成△6六銀(???)と進む。二手かけて田楽刺しの香を入手するだけの手を指すT師。しかし、それに気づかなかった私はその狙いを許してしまう。 ![]() 結果だけ見ると、▲4四桂の犠打からの一連の手順で馬を召し上げたわけだ。漫画「ヒカルの碁」風に言うならば「▲4四桂はあの時点では悪手だったが、うまく相手を誘って指させ、悪手を好手に化けさせた!」とでもなるだろうか。 そして、この将棋は例のごとく「七転八倒の終盤」で、最後は笑劇的な結末を迎える。そちらについては、なぜか将棋世界2005年1月号255頁に載っているので、お持ちの方はぜひご参照願いたい。 傍から見れば、将棋盤を用いた漫才かのように思われるだろう。しかし、これも全て互いを認め合った上での闘志のなせるものであった。私はこれらのT師との棋譜を誇りに思う。
ただ、大変残念な事に、T師は2004年末をもって職場を去り、新たな道に進む事になった。今後、T師と対局できなくなると思うと本当に寂しい。
さて次回は、この4年間、我々の将棋を熱心に勉強して棋力向上(?)に励み、本稿では図面作成ほかでいろいろ手伝ってくれた大野隆氏にバトンタッチしたいと思います。
(次回は大野隆さんにバトンタッチ)
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