リレーエッセーその158

着眼大局着手小局

伊藤雅明



 お盆休み久し振りに蒲田の将棋クラブへ行った。奨励会1級のM君との対局となった。蒲田の将棋クラブは10年以上も前から奨励会員やプロを目指す子供たちの溜まり場だ。さてM君との対局であるが、案の定序盤早々1歩損をし、不利になった。差を広げられないように辛抱するが、金取りに桂を打たれた。金が逃げれば、逃げたところに歩を打たれ桂取りだ、更に角・銀両取りの桂のふんどしだ。困った。このままではいいところなく負けてしまう。落ちついて局面を考えよう。へんに金が逃げるから、手番がまわらないのだ。金を取らせる間に反撃を考えればまだまだだ。しかも金を取った相手の桂は活用が望めないばかりか飛車の進入にとって邪魔駒になっているのではないか。局面は小生の考えたとおりに推移し局面は難しくなっている。優勢と思っていた相手の手は萎縮しだしたが、こちらの手は前へ前へと進みだす。終盤王手飛車を掛けさせ、交換させた金と桂を使って勝利した。大局観の勝利である。

 新聞の1面は衆議院解散総選挙の話題で花盛りである。今日も国民新党が5人のメンバーで旗揚げをしたという記事が載っている。しかし、思惑と違って意気揚々の旗揚げというより、追い詰められた旗揚げとの印象が強い。郵貯反対派の人たちは郵貯法案を否決に追い込むという小局に勝利したが、大局では遅れをとった印象である。勿論最終の結論は9月11日の国民の審判を待たなければならないが、37人の反対派のうち何とか選挙で生き延びる人は3分の1ぐらいではなかろうか? どうしてこのような流れになったのだろうか? 郵貯民営化は小泉首相の長年のテーマであり、否決されれば内閣不信任とみなして解散すると言明しており、この流れは第三者から見ればごく自然と思えるのだが、反対派の人たちはあまりにも小局の勝利に心が奪われ、大局をつかむことが疎かになったのではないかと思う。大局をつかむには、心を落ち着かせ現在の小局をすこし離れた所から眺めてみることが必要なのであろう。

 将棋クラブの帰り、勝利に気を良くして本屋で「将棋世界」を買った。米長新会長の抱負が載っていた。20年後の将棋界を目標に、

1.棋士の技量を向上させ尊敬される事
2.将棋ファンを大切にする事を基本に会長として舵を取りたい

 というようなことが述べられていた。特に、将棋の普及に地味ながら活躍しておられる方々などもっと積極的に将棋世界などの雑誌にとりあげ、ファン拡大の後押しをしたいと述べられている。スポンサー料の減少、将棋雑誌の売り上げの減少、大会参加者の減少など厳しい状況下の現状を直視し原点に立ち戻り、将来に生きる施策をおこなっていくという決意と思いました。大局観はさすがである。問題は小局をどう着手するかだ。将棋連盟はいわば個人事業者の社長の連合体みたいなところで、自分の利益に直接関わらない問題に積極的でないという印象がある。この体質を変えられるのか危惧するのであるが、反面ぜひ新会長のリーダーシップを発揮して普及面で連盟の目に見える活動を期待したい。

 普及は足の長い地道な活動で、すぐに結果が現れるものでないだけに大局観を失わず、小局にこだわらない決意が大切だと思います。「将棋を世界に広める会」がこの度10周年になりました。今改めて振り返れば10年でやっとここまでといったところです。中国、ウクライナ、ロシア、韓国は現地で将棋を広めようとしてくれる熱意ある人ができました。ヨーロッパでは将棋がさかんで定期的に大会を開いている国か以前はオランダ、イギリス、フランス、ベルギーぐらいでしたが、いまはドイツ、スエーデン、チェコ、イタリア、ポーランドなどとひろがりを見せています。しかし、参加者は10年前と変わらないか、少ないくらいです。海外への普及ばかりでなく、国内の外国人に対する将棋の普及もISPS(将棋を世界に広める会)のテーマでしたが、残念ながら成果はあがっておりません。普及とは本当に時間のかかる地味な努力が要求されるのだと思います。しかしここから離れては将棋界の20年後はいまよりも悲惨な状態かもしれません。

 連盟の小局での努力の積み重ねが本当に必要だと思う。先日東将連主催の団体戦があった。連盟から島八段と、坂東女流2級が会場にお見えになり、将棋関係の本、グッズ類の販売とサイン会をおこなっていった。いままでになかったことである。この本気をつづけて欲しい。そして20年後には将棋も囲碁に並んで頭脳オリンピックの種目に選ばれていたいものである。



(次回は辻清治さんにバトンタッチ)